数多くある高齢者施設。グループホームやデイサービス、介護付き有料老人ホームなど種類もいろいろある中で、泊まり・通い・訪問の3スタイルの介護ケアを提供する施設として位置づけられているのが「小規模多機能型居宅介護施設」です。
土地活用で小規模多機能型居宅介護施設を検討する場合に、知っておきたい基礎知識などを詳しく解説します。
2006年にスタートした小規模多機能型居宅介護ホームは、地域密着型サービスの高齢者施設ひとつ。他にもタイプの異なる8種類のサービスがあり、利用者は用途に合わせて介護サービスを使い分けています。
そのなかで小規模多機能型居宅介護ホームは通所・宿泊・訪問に対して365日24時間体制でサービスを提供。小規模ながら多様なスキルをもった専門スタッフがいることで、利用者にとっての利便性や安心感をもたせています。
小規模多機能型居宅介護施設は、地域密着型の介護施設として2006年に創設されたサービス形態で、利用者を施設のある市区町村に住民票がある方のみを対象にしています。
1事業所あたりの利用登録人数は定員制となっており、在宅介護をするご家庭を支える施設として注目が集まっています。
具体的に、1事業所あたりの登録可能人数は29人以下。デイサービスを利用できる人の定員は18人/日以下、泊まりは9人/日以下となっており、利益を上げるためにこれ以上の人数を受け入れることはできません。
小規模多機能型居宅介護施設の開設は、市区町村の福祉政策とも深く関わっていることから、公募に応募し、施設基準や人員体制などを審査されたのち、事業所として指定されなければなりません。
土地活用の選択肢の一つとして検討するのはもちろんできますが、介護事業所の運営自体もするというのはあまり現実的ではないでしょう。
土地や建物オーナーとしては、土地や建物を賃借し、運用する方法を採用することが多いと言えます。
小規模多機能型居宅介護施設で提供しているサービスは主に次の3つ。
また、利用条件としては「要介護認定(要支援認定)を受けている高齢者の方」となっています。
そもそも小規模多機能型居宅介護施設が創設された背景には、介護を必要とする高齢者の方が住み馴れた地域・自宅で生活を続けられるようにしようという目的から。国の介護政策は、「施設から在宅へ」という流れに向かっており、小規模多機能型居宅介護施設は、在宅介護サービスの充実のために作られた施設とも言えるのです。
例えば自宅で家族から介護を受けながら生活している高齢者の方の場合。介護を担う家族が結婚式や仕事などで家を1番開けなければならなくなり、夜間の介護を必要とするときに、デイケアだけでなく止まりのショートステイを利用する、そんな利用が期待されています。
小規模多機能型居宅介護の魅力は、同じスタッフがデイサービス、訪問介護、ショートステイを提供するため「いつもと同じスタッフに介護してもらえる」と利用者側も安心感を得やすい点。砂金では、通い・宿泊・訪問介護にプラスして訪問看護サービスを提供する看護小規模多機能型居宅介護というスタイルも生まれています。
このように、介護を必要とする在宅生活者にとってとても便利な施設である小規模多機能型居宅介護。一見いいことづくめのようにも見えますが、運営面ではまだまだ課題があるのも事実です。小規模多機能型居宅介護施設は、現在政府が当初想定していたよりもショートステイ(泊まり)サービス利用を希望する方が多く、介護事業者側にとって運営が難しいことが指摘されています。というのも、小規模多機能型居宅介護の利用料金は、1ヶ月の定額制。受け入れ可能人数が限られているため、宿泊利用などが増えれば増えるほど、経営も圧迫。さらに、利用希望者を無条件で全て受け入れることが難しいことなどが背景として指摘されています。
こうしたことから、有料老人ホームやグループホームに小規模多機能型居宅介護施設を併設し、サービスを展開しているところも多くみられます。また、行政によっては、グループホームの新規開設にあたって、小規模多機能型居宅介護事業の併設を条件としているところも出てきています。
参考に、独立行政法人福祉医療機構が発表した平成28年度の「小規模多機能型居宅介護事業の経営状況について」のリポート[1]をご紹介してみましょう。
このレポートでは、小規模多機能型居宅介護事業の経営は、全体の4割ほどが赤字経営。黒字施設の特徴としては「通いの利用率が高い」「(利用者の)登録率が高い」「医療ケアの実施率が高い」などの特徴がありました。また、定員規模別にみてみると、二十五人定員の施設よりも29人定員の方が赤字割合も低く、経営するのであれば定員数が多い方が比較的安定した経営になりやすいという傾向も見て取れます。黒字化経営には、利用者登録率を高め、医療ケアなど利用者の求めるサービス提供体制を整えるとともに、多様なサービスニーズに対応するための施策を考える必要がありそうです。
こうした介護事業所の経営戦略は、初めて介護事業に参入する場合にはなかなか難しいところがあるのも事実。通い・訪問・泊まりの3つの介護サービス形態を全て担うことは簡単ではありませんから、土地活用する際には、どんな事業所と組むかをしっかりと考えるべきと言えるでしょう。
土地活用で小規模多機能型居宅介護を検討するなら、小規模多機能型居宅介護単体での検討に加えて、他の介護施設に併設するという選択肢も考えてみてもいいかもしれません。
[1]出典:(PDF) 「平成28年度 小規模多機能型居宅介護事業の経営状況について」独立行政法人福祉医療機構[PDF]
土地活用として小規模多機能型居宅介護ホームを建てることの主なメリットを紹介します。
土地活用においては、「収益性」を優先して事業者を選びたいところです。
なかでもイニシャルコスト(初期投資)の規模をできるだけ抑えられたほうが、その後の収益性にも大きく寄与するといえるでしょう。
建設時の平均坪単価も、一つの目安になるのではないでしょうか?
事業者名 | 平均坪単価 | 公式サイト |
---|---|---|
ワイビルド | 1坪あたり 50万円台~ |
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渋沢 | 1坪あたり 60万円台~ |
|
レオパレス21 | 1坪あたり 70万円台~ |
小規模多機能型居宅介護ホームの坪単価の平均は、70.2万円。他の介護施設と比べるとやや高めの水準と言えます。
引用元:独立行政法人福祉医療機構福祉貸付部の資料(http://www.wam.go.jp/hp/Portals/0/docs/gyoumu/fukushikashitsuke/pdf/11/22syokibo-tyosa.pdf)小規模多機能型居宅介護ホームの施設に対する設置基準や設立にあたっての補助金などは以下となります。
平成30年度中に小規模多機能型居宅介護事業所を新たに開設する、次の基準を満たす法人
▼建築基準
居間・食堂 | 1人あたりの床面積が3平方メートル以上であること |
---|---|
宿泊室 | 1人あたりの床面積が7.43平方メートル以上であること |
必要な設備など | 事務所、台所、浴室 |
▼補助金
補助金交付基準額(整備費分) | 1施設当たり、3,200万円となります。ただし、県によって満額交付されない場合があります。 |
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補助金交付基準額(設備費分) | 62.1万円 × 宿泊定員数 ただし、県によって満額交付されない場合があります。 |
参照:川崎市「小規模多機能型居宅介護事業所開設時の補助金について」
http://www.city.kawasaki.jp/350/cmsfiles/contents/0000073/73586/H30shoukibo.pdf
厚生労働省の調査データで、2015年度と2016年度の地域密着型介護予防サービスの受給者数を見てみましょう。
サービス | 2015年度受給者数 | 2016年度受給者数 | |
---|---|---|---|
介護予防 | 地域密着型介護予防サービス | 13万8,600人 | 15万300人 |
うち小規模多機能型居宅介護ホーム | 11万5,700人 | 12万6,800人 | |
介護 | 地域密着型介護予防サービス | 491万1,700人 | 980万2,800人 |
うち小規模多機能型居宅介護ホーム | 9万9,610人 | 10万6,330人 |
介護サービスのなかでは小規模多機能型居宅介護ホームが高い割合を占めていますし、介護サービスも含めて増加傾向にあることがわかります。
引用元/厚生労働省『介護給付費等実態調査の概況』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/16/dl/11.pdf
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居宅介護ホームの建設費用の目安を見てみましょう。
仮に延床面積150㎡の居宅介護ホームを建てた場合、建設費用の目安は1億円です。通所介護やショートステイも考慮した設備を整える必要があるため、建設費用の坪単価はやや高めとなります。
土地代や備品代、広告宣伝費なども含めれば、トータルで2億円程度の建築費用を要することになるでしょう。
居宅介護ホームの建設費用に対しては、自治体が助成金制度を設けていることがあります。助成の条件や金額については、施設を建設する予定の知自体に直接問い合わせてみましょう。
なお、すでに当ページでご紹介した通り、神奈川県川崎市における助成金の金額は、1施設あたり3200万円となっています。すべての居宅介護ホームに適用される助成金ではなく、居間や食堂、宿泊室などの設計で一定の条件を満たした施設のみが支給される助成金です。
居宅介護ホームで土地活用をした場合の想定利回りについて見てみましょう。
居宅介護ホームの利用者1名における月間平均売上は、約23万円です。一方で、人件費率は75%前後です。これらを基準に単純計算をすると、上の例における施設では、おおむね10%の利回りを確保している状態となります。
少子高齢化が叫ばれて久しい昨今ですが、今後も高齢者の比率・人数が増え続けていくことは、現在の人口の構成を見れば明らかなことです。高齢者が増えれば、当然ながら、高齢者向けの施設の需要は上がります。居宅介護ホームについても例外ではありません。
一方で、土地活用術の一つとして、マンションやアパートの建設を考えている方もいるようです。ところが、マンションやアパートに入居する層は、多くの場合、高齢者世代ではなく若い現役世代。日本社会では、高齢化と同時に少子化も進んでいるため、将来的にはマンション・アパートの需要が低下する恐れがあるでしょう。
ニーズが増えることが確実視され、かつ、長期的に安定した利回りが期待できる居宅介護ホームでの土地活用。少しでもニーズが高い場所を選び、かつ、少しでも初期費用を抑えて施設を建設すれば、より安心できる土地活用となることでしょう。